佐藤友哉「離昇」 【B】

元々は好きな作家だった事もあり発売するやすぐに読了した。すぐに読了出来るドライブ感のある作品であり、この作者の特徴が筆致からして醸し出されているものの、内容面にはあまり感心しなかった。愚痴を愚痴たらしめない描き方ができる作家であるはずなのに、客体化に乏しく、単なる愚痴のように伝わる作品で、そこから拡がって行く世界も今回は貧弱である。言葉のドライブのみを楽しんだ所感。それでも無駄な時間という印象はないのは、作家の特質か。

松波太郎「月刊「小説」」 【A−】

小説が孕む複合性からして非常に楽しんだ。ジャンル自体を久しぶりに楽しめた所感。やりすぎに感じる箇所もあるが、それも小説の良さに感じさせてしまう。文学を否定する語りが私小説の変化球なので、改めて私小説の面白さを認識できてしまう奇怪な構造でもあう。テイストも作者も異なる作中数篇が味を出し、作者の限界をネタにした作者の才気も迸っているが、難を言えば、ファン探しの旅と古代回帰の二重写しのラストがややあざといか。

砂川文次「市街戦」【B+】

今読まれるべき作品である事は確かである。生物の如き題材の作品であるが、他の時代にも通用しそうな硬質な筆致で書かれている。ジャーナリズム的用語・表現への依拠が散見されているように感じられる事が、どう読まれるか。新聞記事・ルポ・文学作品の間を問い直すには今少し紙幅が割かれるべきだったか。今少し文章・語句に一貫性があっても。

岸川真「PET」 【B+】

かなり好みは分かれる作品だろうが、私は面白く読んだ。同性且つ世代も近いという事もあるだろうか。女性受けはしなそうな欝然とした作品世界・筆致ではあるが、真摯に題材に向き合っている様に所感。突飛なシーンが多いが、きちんとリアリティがある。何とも言えぬ浪漫を感じもする。次作にも期待。

最果タヒ「十代に共感する奴はみんな嘘つき」 【C】

勢いで書き切ろうとしたように所感する作品だが、思いの外早くに失速した印象。勢いで書き切れるほどに速度感もなく、構成のバランスも悪い。何度も推敲する中で失調したか。選択する一語一語のセンスには時々目を瞠る。

山崎ナオコーラ「美しい距離」 【B】

これまでのこの作者の作品とは筆致・内容ともに一線を画しているまさにその過渡にあるような作品。感性に拠り過ぎていない点において新たな読者層を獲得するかもしれない、とは言い条、これまでの読者からすると物足りないだろう。そのちょうど中間点に着地しているかの如き作品で、そのバランス感覚に感嘆。更にここから飛躍するのだろう次の一作に注目したい。

蓮實重彦「伯爵夫人」 【B+】

この人物だからこそ許される如き作品のように一読して感じるも、読後これでいいのだと思える様な作品。読んでいる時は楽しくはなかった。しかし時代背景は言わずもがな、このような形式である事自体がこの作者にとっての必然性めいたものを所感。余韻が凄い。