2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

岩城けい「さようなら、オレンジ」【B+】

所謂世界文学・翻訳文学の影響をきっちり受けた様な文体で、読みやすい作品ではあるが、題材の割に新しさは感じず。感動的な場面もあり、現在の日本の作家になかなか書けない内容ではあるが、手紙といった手法や人物描写の短絡化等々、基本的な部分での力は…

絲山秋子「今は限り」【C+】

枚数に由る所が大きいのかもしれないが、哲学的な要素が取って付けたのみの印象。短い枚数なのに粗い印象も。感情の浮き沈みを文章・構成の抑揚に反映させるのが巧い作家なだけに、枚数も関係してくるのだろう。

川上未映子「ミス・アイスサンドイッチ」【B-】

作品内容としては案外面白かったのだが、冒頭からの文章のテンポからして乗り切れなかった。初期の独特の文章の間合いや勢いが好きだったのだが、ここ数作鳴りを潜めている。今作に限っては何とかして取り戻そうとしている常人の努力の痕跡。個人的に応援は…

山下澄人「コルバトントリ」【A-】

この作風でやれる極みのように感じ高評価。このような作風には相当数のアンチがいるだろうが、私は作者と同世代という事もあってか又は何かしらの共通体験があるからのか違和感なく楽しむ事が出来た。細部と全体のバランスも良い。但しこの作品で理解できな…

黒川創「深草稲荷御前町」【B+】

緩い空気が流れつつも、時々刺激的な単語や事象が飛び込んでくる事に、バランス感覚を感じた。この作家の小説感や題材の扱い方には共鳴し、実際に面白く読んだが、力はさほど感じなかった。文章の細部にもっと精緻なものを感じたかった。細部と全体。小説は…

守島邦明「息子の逸楽」 【B】

無駄を徹底的に削りきちんと一篇に纏めた印象。やや纏まり切れていない部分や削りすぎたのではと思う箇所もあるにはあるが、ストイックな姿勢に好感はもてた。作品の話自体に今少し爆発力が欲しかったが、土台はしっかりした作家だと思う。

荻世いをら「宦官への授業」【B】

「ではなく」の一々の多用がひどい事もあり、中盤から飽き、全体として無駄が多かった印象。文章の密度はあり木下古栗と類似の印象を受けるが、一文に潔癖になり嵩張るあまり全体性を失う弊害。この世代の作家に多い弊害。文芸誌には時々見かける名前であり…

前田隆壱「アフリカ鯰」【B+】

物語としては楽しく読んだ。アフリカをただアフリカとして描いている印象。ただ絶賛には程遠い。友情が途中から押し付けがましく所感した点と、短文の連なりが美文であると途中から説教されているように所感した点。

いとうせいこう「鼻に挟み撃ち」【B-】

敬愛しているのだろう作家諸氏や周囲の実在するタレント等の固有名が出てくるが、そういった固有名に頼らず作った方が良かった。そのような固有名になじみのない読者からすれば狭さしか覚えぬ部分も。パーソナルな切実さ以上にそのような点が散見した事が残…

桜井晴也「世界泥棒」【C+】

ただ単純に途中から面白くなくなった。それはどの地点という話ではなく、この作者の中で既に凝り固まっているのだろう文学的スタンスに触れてしまったからだろう。作家のスキのなさはともすれば作品の欠陥になる。もしこのスタンス・この題材で書くのなら、…

金城孝祐「教授と少女と錬金術師」【C】

タイトルからして纏まりのない印象を受けて、それは内容までもがそうだった。とりとめのない事が作風なのは分かるが、そのとりとめのなさは面白い事が大前提。中途半端。自由連想という一つの方法様式にまでも突っ切ることが出来ていない印象。

奥田亜希子「左目に映る星」【B】

最初はありきたりな感じがしたが、読み進める内になかなかの才気を感じた。文章と構成にテンションがある上、性的題材も正面から書く事が出来る。但し男性描写は今一つ。

木下古栗「新しい極刑」【B】

個人的に終盤は好きで、文章の密度も相変わらず高いのだが、緩急が少ない故、中盤は読むのが辛かった。情報量がうまく見合っていない印象。この作家の作品の中で間違いなく力作ではあると思う。

松波太郎「LIFE」【評価不能】

青木作品で使った【評価不能】を今回も使わせて頂く。ただ青木作品とはまた別の意味で評価不能。一つの達成ではあると所感。ただ論じる言葉が今は無し。

淺川継太「ある日の結婚」【B+】

安部公房を思わせる表現は数多くあるが、本質の部分ではきちんとこの作家の作品たりえている。妄想ではあるが何かのイメージに寄り添っている印象は少ない。安部公房的表現を除外した上で次は読みたい。

上田岳弘「太陽」【B】

前半の大⇔小、広⇔狭というノリは申し分なく才気を感じたが、それを最後まで押し切るには力不足の感。終盤に合わせて前半を作り直す勇気も必要。

滝口悠生「寝相」【B+】

センスの良さが押し付けがましくない形で発露しているという事は本当にセンスが良いのだろう。この作品を読み多々考えた。話自体は趣味ではないのに最後まで読まされた感覚。センスの良さだけでも作品になるのだと結論。

中村文則「銃」【A】

最近文庫で再読しこの作家の中で最も優れた作品である事を再認識。無駄のないオーソドックスな純文学的文体ながらリズム含有。タイトル・文体・内容とも締りがある。