2012-01-01から1年間の記事一覧

早助よう子「陸と海と」【B+】

才能の塊の様な物を所々感じた。才能と言うより感性の鋭利と形容すべきか。「文藝」に載っていた作品も悪くなかった。短い作品だからというのもあるかもしれないが、短い作品という割には才気をこれ見よがし押し出していない感じも好印象。

松家仁之「火山のふもとで」【B+】

良い意味悪い意味、新人らしからぬ印象。建築のみならず全方位的な文学的素養、オーソドックスな筆力。無論読んでいるこちら側には「新しさ」は感じられず、インスパイアは無い。それでも良しと所感。

舞城王太郎「私はあなたの瞳の林檎」【B-】

「舞城」性が薄まったというか、「舞城」性のみしか残らなくなったというか。作家が自分の作家性を真似る悪循環というか。青臭さとスカスカしか感じない箇所多々。さすがと思わせる部分もあったが、欠伸も出た。

北野道夫「関東平野」【B】

全体的にぼやけた感じ。それはこの作家の特色でもあり、哀切も浮かび上がっているように思うが、単刀直入に言い、読む楽しみが少なかった。タイトルからして震災の事を遠巻きに絡めようとしたのだろうが。

村田喜代子「屋根屋」【A-】

実は最近この連載を楽しみに購読している。連載が終わった時にでも具体的な事を書けたらと思うが、この作家の語りと語る内容が非常に合っている。この作品を語るために、この作家は長年虎視眈々と準備していたようにすら。

木村友祐「天空の絵描きたち」【C+】

労働条件不良現場での群像劇と言うべきか。笑わせる箇所もあるが、全体的に中途半端。文章自体の問題も。登場人物達が設定の割に発言内容が賢かったり、肉体労働者とは思えず、その紋切から抜け出すと解釈するには、あまりにも作家の地が透けて見える。死の…

戌井昭人「ひっ」【B-】

構成は悪くないと思うのだが無駄な文章多し。芸風というにはやや遠い。急いで書き飛ばした印象も。この作家のウリである情緒はそれなりに感じるものの、もう一押し欲しい所。

丹下健太「顔」【C】

前半は悪くなかったが後半は辛かった。顔が変わるという文学的といえば文学的な題材にリアリティーが負けている。物的証拠という問題に対峙しない等の違和が積算した。

松波太郎「西暦二〇一一」【A-】

伝承と現在が交差したときタイトルが切ない。私が読んだ最近の純文学では傑出。もうすこしだけ長くて良い気もしたが、以前この作家に感じた粗雑はなく、難しい題材を軽やかに描いている。

筒井康隆「役割演技」【B】

富裕パーティーや対比的な後半の描き方も悪くないが、心が高ぶらなかったのは事実。キレの問題か。自分が学生の頃は筒井康隆の新作と聞いただけで心が高ぶったもの。古井とはある意味対照的。

綿矢りさ「人生ゲーム」【B−】

以前はドライブ感がもっとあった気がしたが、理詰めになるとこのような作品になるのだろうか。幼さをコントロールするのは巧く、これはこれでいいのかもという読後。

古井由吉「窓の内」【A−】

冒頭の文章によるものか古井作品にしては読みやすい印象。しかしやはり古井作品。圧巻。二度読み三度読みに耐えうる。この作家が現役で書き続け、その新作を読めることは贅沢なこと。

荻世いをら「東武東上線のポルトガル風スープ」【C+】

文体を見る限り成熟した印象。自分のスタイルを持っていることと同時に、この作家のスケールの限界が見える印象。前半は多少面白い部分もあったが、中盤からは読むのが厳しかった。

鈴木善徳「河童日誌」【B-】

着想自体は悪くないんだが、後半にすすむにつれてリアリティー甘し。こういった作品には如何にリアリティーを保持できるかが鍵。日誌的に文章を区切っていくことも、その必然性以上に安易な方に逃げた志の低さ。

藤野可織「にゃあじゃわかんない」【B+】

高度なことをしていることを評価。意味をもたせようとしたわざとらしい文章や元々の文章の精度でひっかかる所は多くあったが、それより試みを高く買いたい気分。

岡本学「架空列車」【B】

リーダブルな作品であり、構成もわかりやすい。ただその分スカスカな印象が拭えず。「手本」として名前を挙げた村上春樹の悪い部分を引き継いでいる印象も。自分の趣味ではない作品だが、地震をある意味正面から論じた作品として、随所に記憶すべきディティ…

広小路尚祈「田園」【C-】

饒舌体というより単に粗い印象。体言止め等の効果も出ておらず、読んでいて少しきつかった。体調の悪い町田康のような印象。

墨谷渉「もし、世界がうすいピンクいろだったら」【C】

いろいろな要素を盛り込んでいるものの、空回り感。主人公のキャラ化が成功しておらず、会社の倒産等の切実さがイマイチ。この作家はSMなどの1テーマで押し切る方が向いており、作品の長さに限界。

小祝百々子「こどもの指につつかれる」【B】

完成度の高い作品だと思った。思ったものの、これは何かの模倣としての完成度の高さであり、独自性は低い。厳密に何か既存の作品というわけではなく、既に裏打ちされている美意識そのものに乗っかっている感。もうすこし根本から書かなければ上滑り。

山下澄人「ギッちょん」【B】

ちぐはぐな文章、構成が、きちんと自分の手法になっている。いわゆるヘタウマ系統の作品だが、かなりこなれている印象。ただそのちぐはぐさが作品のダイナミズムとつながっておらず、読後イマイチ。

岡田利規「耐えられるフラットさ」【B+】

緩いながらの緊張感を全篇張り詰めつつ、小説内演劇の「プロット」も十分楽しめた。この作品について論じたわけではないが、作品後の佐々木敦の作家解説も分かりやすくてなかなか面白かった。描写も過不足なく丁寧。もうすこし上の評価をしたいところだった…

三並夏「このときを待っていた」【B+】

好感をもった。これだけ在り来たりな題材で書いて独自性を感じさせるのだから才能があるのだろう。掌編ではなく今度は中篇長篇を読んでみたい。題材面で練りこむ必要はあるが将来性を感じさせる。

羽田圭介「隠し事」【C】

ストーリーがはっきりしており、話自体も悪くないはずなのに、読みきれない。こちらの問題か。量産に向いた文体ではある。ケータイの蔓延する若者社会が存在していることは確かだが、文章が媒体ではやはり困難なのか。漫画で読みたい。

青木淳悟「鎌倉へのカーブ」【B-】

私小説という手法をそれまでのスタイルにからめた実験的作品、といった感。もう少しやり様があったのでは。描写は前回より丁寧になっているが、ストーリー性が逆効果となり全体的に弛緩。

西村賢太「苦役列車」【B】

回想という形式をとるわりにイマイチ感動しなかった。 過去を振り返る文体と、それが現在か過去か簡単に分割できない文体の面白さが個々にはあるものの、一貫しておらずチグハグ。笑える箇所というのはあるにはあるが、それは性のレベルに届かない下ネタレベ…

川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」【B+】

この作家なりの決意表明ともなる作品では。 前作以来(とくに長編において)、大衆読者に応じた変化を見せていることは如実である。純文学や詩的要素の強度を弱めつつも、そこには戦略的な指針が見受けられる。今回においては会話が冗長であったり、描写が凡…

今村友紀「クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰」【B】

選評のどこかにもあったように舞城の影響は否めないだろう。舞城の突き抜けた感じは弱い。ただし舞城の作品にいまいち乗れない自分にような読者にとっては、マイルドな好印象。舞城ほどコアファンをつくることはないにしても、広範な評価を得る可能性も。

穂田川洋山「自由高さH」【B】

流麗な文体。様々な物事の固形物を流麗な文体で回遊。いわゆる「世界文学」の系譜も感じる。同時に既視感。勤勉さを感じるため、嫌な既視感ではない。評価の難しい作品ゆえ、最後は「面白さ」基準。

松波太郎「廃車」【A−】

面白かったが才能の塊のみという印象。粗削り。この作家はサッカーのものを読んだことがあるが、勢いはこちら。粗削りだが新人らしい。突然挟まれる事故の場面と長いセリフは爽快。

磯崎憲一郎「肝心の息子」【B+】

アンチ大河小説。ネタの印象は強いが成功。この作家の他作品を読んだが、デビュー作に回帰した方がいいのでは。自分も会社員として賛同する作品もあるが、このデビュー作に比べると凡作。この一作のみでは一発屋の印象。それくらい魅力のある作品だというこ…