乗代雄介「最高の任務」 【B】

するすると読め、その点では好印象。語り手の属性等も特異。掴み所の無さもセクシャルを越えて広く読まれるのでは。ただセンスのみで書かれた感は否めず、頁を繰って行くに従い鼻に付き出す。自分の書き易い箇所のみを書いている感が強まり、どんどん離れて…

佐々木敦「半睡」 【B-】

四年ぶりの記事になる。これまでの四年間もtwitterの方で細々と書いてきてはいたが、こちらでは久々。字数制限なく書けるという事もあるし、この状況下リモートで在宅勤務出来るようになったことも一理。暇潰しに少し長めに覚書。自分の執筆の為の覚書。 「…

片岡義男「私は泣いています」 【B+】

軽快なリズムがあり、<マイソング>という特集作品の中で最も主旨に合っているように所感。音楽を聴いている如き心地良さがあった。可視的な音楽を堪能できる作品とも言えよう。惜しむらくは内容がいまいち頭に入ってこなかったが、十分楽しめた。

木村友祐「野良ビトたちの燃え上がる肖像」 【B】

熱量の高い作品。情報量も多く、中盤から読むのが辛くなる。仮想作者の強いメッセージ性も高く、それ自体は悪くない。仮想作者が登場してふるまう言動にあざとさや陶酔のエゴを所感し、更に辛い。今少しの推敲と必要のない箇所は削除しても良かったのでは。…

青山七恵「ミルキーウェイ」 【B+】

非常に巧く纏まった作品で、主人公の心境もドライブと共に巧く表象。文章自体はさほど巧さは感じずとも、全体の構成が光っている。同乗した女の子がやや類型的であるうらみはあるにせよ、技術の高さと叙情が噛み合った佳作。

中村文則「私の消滅」 【B】

ジャンルを越境するという点では評価すべき作品ではあるものの、越境の先が不明瞭。越境というより単に重なっているかの如く重たい。情報量・内面・文章共々。奏功している印象は薄い。

今村夏子「あひる」 【B】

既視感の強い作品は評価を低くしているが力量は感じる。なかんずく前半から中盤にかけてのあひるを介した人間模様は丁寧に描けているし、主人公の何とも言えぬ境遇も中盤までは良かった。安易な情緒に陥らせない規律も高かったが、終盤にかけてはガス欠の印…

村田沙耶香「コンビニ人間」【B】

人間の本質に関わる題材であり、一人の例として興味深く読める。但し一人の例の提示以上には感じらず。なぞっているかの如き書きぶりであり、文章で表すという力強さは感じられなかった。タイトル儘のネタといった印象。近い人物が周囲にいればイメージがつ…

吉村萬壱「宗教」 【B−】

ですます調の文体は「ボラード病」同様であり、文章の律し方それこそが宗教の如き所感だが、今回は微妙。枚数の問題というより内容そのものだろう。倫理意識も若干あるだろう。類型を描かない類型という規律に縛られている様に感じられ、その高みから語られ…

西崎憲「日本のランチあるいは田舎の魔女」【C+】

書きぶりは端正で無駄のない文章だが、内容がとっ散らかってしまっている印象。途中で軸がぶれたか。無駄がない分ぶれだすと修正が難しいのだろう。出だしが象徴的な分今少し時間をかけて修正を加えても良かったのでは。

山下澄人「しんせかい」 【B+】

後半の中頃までは楽しく読めた。ユートピアともディストピアとも言えぬ様な世界がくっきりと現れ、興味深い。この作家の新境地とも読めるが、これまでよりくっきりとしている分シーンの移行の凹凸等の弱点が随所に散見。具体的世界の物語の終え方への逡巡も…

小谷野敦「母子寮前」 【B−】

古書市で安く手に入ったので早速読了。丁寧な国語で書かれている点は力量を裏付けているのだろうがそれだけ。私小説という制度を軸にしつつ異化しているのだろうが単純に作品として面白くない。ただ国語や制度に依拠しているだけという所感だが、倫理意識は…

崔実「ジニのパズル」 【A−】

題材も無論あるのだろうが、現在の日本文学の窮屈さから解放されている印象。題材がこのようなのびやかな語りを呼び込んでいるのかもしれない。異化する必然性を所感。各国を移り行く各々のシーンにも書かれなければいけない必然性を感じさせる。語りののび…

高原英理「リスカ」【B−】

丁寧な筆致で文章が紡ぎだされている印象であり、基礎がしっかりとした力量を感じさせる。但し内容が内容なだけに、人物を模している作者の願望が透けて見える所が惜しい。作品世界は強固である事がかえって別の問題を惹起しているように所感。とは言え、こ…

佐藤友哉「離昇」 【B】

元々は好きな作家だった事もあり発売するやすぐに読了した。すぐに読了出来るドライブ感のある作品であり、この作者の特徴が筆致からして醸し出されているものの、内容面にはあまり感心しなかった。愚痴を愚痴たらしめない描き方ができる作家であるはずなの…

松波太郎「月刊「小説」」 【A−】

小説が孕む複合性からして非常に楽しんだ。ジャンル自体を久しぶりに楽しめた所感。やりすぎに感じる箇所もあるが、それも小説の良さに感じさせてしまう。文学を否定する語りが私小説の変化球なので、改めて私小説の面白さを認識できてしまう奇怪な構造でも…

砂川文次「市街戦」【B+】

今読まれるべき作品である事は確かである。生物の如き題材の作品であるが、他の時代にも通用しそうな硬質な筆致で書かれている。ジャーナリズム的用語・表現への依拠が散見されているように感じられる事が、どう読まれるか。新聞記事・ルポ・文学作品の間を…

岸川真「PET」 【B+】

かなり好みは分かれる作品だろうが、私は面白く読んだ。同性且つ世代も近いという事もあるだろうか。女性受けはしなそうな欝然とした作品世界・筆致ではあるが、真摯に題材に向き合っている様に所感。突飛なシーンが多いが、きちんとリアリティがある。何と…

最果タヒ「十代に共感する奴はみんな嘘つき」 【C】

勢いで書き切ろうとしたように所感する作品だが、思いの外早くに失速した印象。勢いで書き切れるほどに速度感もなく、構成のバランスも悪い。何度も推敲する中で失調したか。選択する一語一語のセンスには時々目を瞠る。

山崎ナオコーラ「美しい距離」 【B】

これまでのこの作者の作品とは筆致・内容ともに一線を画しているまさにその過渡にあるような作品。感性に拠り過ぎていない点において新たな読者層を獲得するかもしれない、とは言い条、これまでの読者からすると物足りないだろう。そのちょうど中間点に着地…

蓮實重彦「伯爵夫人」 【B+】

この人物だからこそ許される如き作品のように一読して感じるも、読後これでいいのだと思える様な作品。読んでいる時は楽しくはなかった。しかし時代背景は言わずもがな、このような形式である事自体がこの作者にとっての必然性めいたものを所感。余韻が凄い。

谷崎由依「天蓋歩行」 【B】

作品世界の強度は高く所感するも、閉塞感もあわせて高い。読んでいて何かの煩わしい価値観を強制されているようで辛い。文体と内容が一致していれば常にいいわけではないという小説の難しさを再認識できる作品。だからと言って意図的に破綻させるのとも違う。

日和聡子「虹のかかる行町」 【評価不能】

文体から末広がりを見せる世界観ははっきりとしている割に構成は断片的で、何とも言えない余韻を残す。ただ本作は余りに断片的に感じられ、掴み所がない。掴み所を探すと情報面での粗が散見され、掴み所のないままにしておくと、特に印象の残らない作品に陥…

山田詠美「蛍雪時代」 【C+】

この作家の作品で楽しめるものもあるのだが、今回は悪い部分が出ている印象。ウケを狙いすぎているのか。その姿勢が読者のこちらにまで伝播してきて悪寒に似た感慨。短篇という分量であるのに読了するのが辛かった。波のある作家であることを改めて認識。

保坂和志「地鳴き、小鳥みたいな」 【A−】

題材面でやや楽屋落ちのきらいはありつつ、予備知識がなくても楽しんで読める一篇。佳作だと思う。こちらがそういう一篇をたまたま望んでいたのかもしれず、でもそれを望んでいたたまたまを齎してくれたのがこの一篇のようにも感じさせる味わい深さ。言葉で…

杉本裕孝「花の守」 【B−】

この作者独自とまでは断言できないが、独自と感じさせる世界観の完成度は感じさせる。もっと面白いと感じる読者もきっといるだろう。しかしあまりに入口が狭いように感じられ、一般性は低い。途中まで読み、後は最後の数頁のみを読んだ。それでも全てを読ん…

宮内悠介「半地下」 【B−】

奇天烈な設定ながらリアリティを感じさせるのは、この作者の手腕ゆえだろうか。それでもあまり楽しめなかったのは、文章のせいだろうか。語る人物のイノセント性が高いにもかかわらず、ごつごつして感じられ読み辛い。奇天烈な設定だけを読まされている様に…

戌井昭人「ゼンマイ」 【C+】

だらだらと読めはするし、今回は特に如実に所感するも、やはり物足りない。モロッコという異質な舞台設定がなされているにもかかわらず、そのように感じさせるのだからよっぽどである。それが特異な芸風にまで行き着いているのなら良いのだが、やはり先人達…

荻世いをら「私のような軀」 【B−】

文章自体は硬質でありながら、なかなか読ませはする。但しその硬質さに囚われて、内容面に無駄な細部を描かざるを得なくなっている印象。文学は細部だという原理を叩きつけているように所感し、最後まで読むのは辛かった。自閉的サンプルの一つの提示として…

白岩玄「ヒーロー!」 【C+】

明らかに純文学ではない筆致ではあり、それでも面白く読めれば良いのだが、内容面にも乏しい印象。野ブタ以来の学園ものということで、期待値が過度に上がってしまっていたこともあるだろう。どうしても過去のこの作者の佳作と比較してしまう内容でもあり、…