2015-01-01から1年間の記事一覧

吉村萬壱 「ボラード病」 【A−】

非常に難しい2011年以降の題材を、バランスよく描いている。倫理意識が非常に高く、メッセージ性に過不足がない。無駄の無い筆致が内容以上に時々息苦しく、いかにも純文学といった作品でもあるが、飽きずに最後まで読める。同じ筆致で貫かれているのに、前…

二瓶哲也 「再訪」 【B】

笑える箇所は多くあり、一種の純文学エンターテイメント。冒頭からの時系列の揺さぶりが中盤・後半にもあったら、メリハリがあっただろうし、文学作品としても評価が高まっただろう。射程範囲も拡がるだろう。これだと単なる青春回想記として読まれかねず損…

北川朱美 「タカハシ先生」 【B−】

タイトル通りの肝心の高校教師の描き方に単調さを感じざるをえず、評価は低くなるが、文章自体には妙な加減がある。堅くなりすぎもせず、緩めすぎもせず。詩人の散文という定型からも上手く出ていると所感。文章が良いので、内容が伴えばといった印象。

上田岳弘 「異郷の友人」 【B-】

先行作家の既視感がある饒舌体で語られる序盤からして読むのが辛かったものの、一貫している事に途中感心。しかし最後までは一貫せず、饒舌体になりきれない粗さが目立った。作品の締め括りにももっと時間をかけて丁寧にするべきだったのでは。内容以前に、…

諏訪哲史 「ある平衡」 【B+】

ありきたりな夫婦間の亀裂の話に堕していないのに、誠実に夫婦間の機微に踏み込んでおり、読み応えがある。また読み返したくなる作品。文章に堅さがあり、もう少し砕けてもとは思いつつ、不思議と読み易いのは相当では。長篇作家の印象があったので、良い意…

山田詠美 「骨まで愛して・・みた」 【B+】

語りの脂が乗っていて一気に読了。短い作品ではあったが、まさに文体の勢いと枚数が噛み合った佳作。笑いもある。若い時より脂が乗っている様に所感し嬉しくも。希望としてはこの語りと題材で中篇、長篇を。

滝口悠生「死んでいない者」【B】

読後感は悪くなく、文章も無駄が少ないように感じたが、内容に無駄を感じた。何故必要過多な家族情報に付き合わされるのかという疑念が募り、眠気。ただ厚みを出す為のようにも所感し、さほど高い技量とは感じず。文章も無駄は少ないが面白味も少なくこねく…

牧田真有子 「屏風の領域」 【B】

文章、センスも悪くないように感じるも、小手先の印象が甚だ。枚数の問題をさし引いてもスケールの小ささは致命的に所感。義父との狭いながらも濃い密度をリアルに描ければ問題はないが、至る所で義父のキャラ立てに走り鼻白む。文章家として文章やセンスに…

村上春樹 「職業としての小説家」 【A-】

この作家の作品はさほど楽しめない質なのだが、この本は存分に楽しんだ。この文体の緩さと内容の緩さが噛み合い過ぎていてその点は時々鼻白んだが、概して楽しんだ。自身が小説家として露命を繋ぐ為に日本の文壇を離れた事が赤裸々と書かれており、それは今…

小野正嗣 「九年前の祈り」 【B】

多様な読みを喚起出来そうな作品という意味合いでは良い作品と所感。大学のゼミに向いているかも。読んでいて心を揺さぶられる作品ではなく、著者の思いを後で知った時の方が揺れぶられるのというのはどうだろう。文学的読解を待ついかにもな表現が散りばめ…

諸隈元 「熊の結婚」 【B+】

短文を刻みながらリズムをつけ、ユーモアもきちんと発露。短い枚数ならそう難しい事ではなかろうが、この枚数をこのスタンスで貫いた事は高評価。なかなか出来る事ではなかろうし、物語も存在している。固有名詞も効いている。あとはもっと大きな心の揺さぶ…

山下紘加 「ドール」 【B-】

精錬されていて、題材にも文体にも迷い無し。意味の良し悪しあるが、新人にしては完成度高し。閉塞度高し。ある一定の人間達には狂信的にウケる可能性もあるが、わざわざ文芸誌でなくても。むしろ同人誌的世界観と所感。既視感が強い題材・文体である故、そこ…

高橋有機子 「恐竜たちは夏に祈る」 【B】

文章の細部から作品の全体に至るまでボコボコしている所感が否めず、もっとこうすればの連続ではあるものの、読後感はそう悪くない。むしろ新人特有の一回性がある。等身大の情熱は作品の形状に嵌り込んでいる。今後書いていく中で多々整備されるだろうが、…

木下古栗「GLOBARISE」【C+】

ありきたりな文学性に捻りを加えたりパロディー化している印象を予てより受けて食傷気味であるため、読む気はしなかったが、短篇集という事で幾つか掻い摘んで読んでみた。特に印象は変わらずとも、確かに文章はしっかりとしている。文学青年の真っ当なグレ…

朝比奈あすか「手のひらの海」【B】

物語としては楽しめた。息子とのゲームを通じてのやりとりに出色のシーンもあるが、シーンとシーンの連結が雑な印象。文体も面白みが薄く、無駄を絞りすぎた感があり、全体の流れを窮屈にしている。純文学を意識した上での文体なのか知れず、ただ主人公格以…

畠山丑雄 「地の底の記憶」 【B+】

物語内容の一種の壮大さに文体が淡々と追随している。重厚さも醸し出ている。これは素人ではなかなか真似出来ない冷静沈着とした芸当だが、この作者は遣り切っている。それでも今一つ物足りなくと感じてしまうのは、やはりこれが既成の文学の亜流の如く感じ…

内村薫風「MとΣ」【B+】

試み自体は高く評価。読了後の所感も悪くなく、スケールを感じさせる作家だと思うが、読んでいる瞬間瞬間は対して面白くなかった。おそらく文章そのものの問題だろう。プロットに合わせて文章を発注している様だが、このプロットに合う文章など滅多になかろ…

黒名ひろみ「温泉妖精」【B】

新人らしからぬ安定した語りの作品で、詰まらずに読める。扱う題材も興味深いが、説明されすぎている箇所が散見。よって読者は字面から先が読めない。もっと行間を楽しみたかった。紋きり表現が多く、題材の清新性が勿体無し。

赤坂真理「大津波のあと」【C+】

題材と文体とサイズという作品を構成する根幹の三つのバランスが悪い。このサイズで行くのなら題材をさらに絞り込むべきだったのでは。詩情は出ておらず、唯のダイジェストの印象。これを叩き台にじっくり書き込んでも良かったのでは。題材が勿体無し。

本谷有希子「異類婚姻譚」【B-】

まさに挑戦作といった所感である。取組んだ内容は評価に値し、夫婦関係の機微に踏み込んでいるが、いかんせん書き飛ばし・書き急ぎの感。集約された一行目からして嫌な予感。情景描写、登場人物も暈けている。挑戦作以上のものではないが、一つ興味深い題材…

羽田圭介 「成功者Kのペニスオークション」 【B+】

短い作品だが面白く読了。受賞後一作ということらしい。おそらくこの作者は最初からこういった調子の作品を書きたかったのだと推察。賞を受けて枷が外れた様子。のびのび書いている感じが読者にまで伝わってくるというのは、究極の読後感の様にも。タイトル…

綿矢りさ 「ウォーク・イン・クローゼット」 【C+】

おそらく次の段階への過程にあるのだろうが、この作家初期の詩情に一読三嘆していた身からすると、やはりかなり緩んだ印象。このようなストーリーに堕している様に感じてしまうのは、やはり初期が良すぎたせいか。それでもまた別の高みを目指しているものと…

中野睦夫 「贄のとき」 【B】

カフカ的情緒が混じっている印象。とりあえずカフカを混ぜておけば文学作品たりえるという風潮があるやもしれぬが、この作品はその混ぜ方が巧かった。妙なテンションのムラも感じられ、情緒不安定さがかえって武器にも。しかしやはり既視感はある。題材に憶…

矢部嵩 「処方箋受付」 【B-】

この月の早稲田文学だけ購入。早稲田文学を購入するのは十年以上ぶりか、いやもっとか。中盤にさしかかるくらいまでは比較的面白く読めたのだが、どんどんこの語調に飽き徒労感。シンタクス的問題もあるのかも知れぬ。逆接や比喩等の一々がボディーのように…

星野智幸 「呪文」 【B+】

前作よりもかなり面白く読了。理由は今を以て判然とせぬが、おそらく前回は千夜一夜物語などと銘を打たれて期待しすぎていたのかもしれぬ。今回は筋書きそのものがしっかりとしている中で、その自分が仕立てた筋書きに文章を追従させぬ克己的取り組みが看取…

辻原登 「渡鹿野」 【C+】

ルポ的作品のようにも感じられるくらい読み易いが、作中の強度に意図した緩急とは思えぬムラがあり、完成度は低いと言わざるを得ない。場面の転換も強引で、粗さが目立つが、話としては面白い。

乗代雄介 「十七八より」 【B+】

一文への執着を感じさせ、なかなかの密度だと思う。もちろん読了するのに私は疲れたが、悪くない疲労感、徒労感ではなく、充足している。同僚らに純文学をどんどん薦めている私ですら、薦めたくないような閉塞性の高い作風ではある。もう少し文章そしてプロ…

前田隆壱 「朝霧のテラ」 【B−】 

デビュー作を物語として比較的楽しく読んだ印象があり、2作目。物語がアフリカから縮小してしまったことがここまで影響するとは。文章が平易で捉え方を悪くすると味気が薄い分、かなり物語内の題材に準拠している印象。これは毀誉褒貶半ばしたものであり、物…

筒井康隆 「モナドの領域」 【B+】

傑作ではなく遺作に感じた。この後もし再び別の作品が書かれるのなら、この作品に感じた最期ならではの一回性の感慨は薄れてしまうだろう。しかしこの作家なら良い意味で遣りかねない。是非裏切って大長編を書いて欲しい。文章は言うまでもなく確かだが、話…

高橋弘希 「朝顔の日」 【B+】

戦時中の国内状況を記録からそのままなぞり上げた様な既視感はあるが、きちんとなぞる力があるだけでも現代作家の中では評価されるべき。もっと書かれる現在ならではの工夫なり冒険なりがあったら、より退屈せずに読めた。それは遊び心でも良かっただろう。…