吉村萬壱 「ボラード病」 【A−】

非常に難しい2011年以降の題材を、バランスよく描いている。倫理意識が非常に高く、メッセージ性に過不足がない。無駄の無い筆致が内容以上に時々息苦しく、いかにも純文学といった作品でもあるが、飽きずに最後まで読める。同じ筆致で貫かれているのに、前半と後半で速度感に雲泥の差があるように感じるのは、この小説においては美点。語りが作り込み過ぎに感じたり、これを海外文学として読むには少々パンチが弱く感じる難はあるものの、この小説に関しては美点をとるべきであろう。