2013-01-01から1年間の記事一覧

岩城けい「さようなら、オレンジ」【B+】

所謂世界文学・翻訳文学の影響をきっちり受けた様な文体で、読みやすい作品ではあるが、題材の割に新しさは感じず。感動的な場面もあり、現在の日本の作家になかなか書けない内容ではあるが、手紙といった手法や人物描写の短絡化等々、基本的な部分での力は…

絲山秋子「今は限り」【C+】

枚数に由る所が大きいのかもしれないが、哲学的な要素が取って付けたのみの印象。短い枚数なのに粗い印象も。感情の浮き沈みを文章・構成の抑揚に反映させるのが巧い作家なだけに、枚数も関係してくるのだろう。

川上未映子「ミス・アイスサンドイッチ」【B-】

作品内容としては案外面白かったのだが、冒頭からの文章のテンポからして乗り切れなかった。初期の独特の文章の間合いや勢いが好きだったのだが、ここ数作鳴りを潜めている。今作に限っては何とかして取り戻そうとしている常人の努力の痕跡。個人的に応援は…

山下澄人「コルバトントリ」【A-】

この作風でやれる極みのように感じ高評価。このような作風には相当数のアンチがいるだろうが、私は作者と同世代という事もあってか又は何かしらの共通体験があるからのか違和感なく楽しむ事が出来た。細部と全体のバランスも良い。但しこの作品で理解できな…

黒川創「深草稲荷御前町」【B+】

緩い空気が流れつつも、時々刺激的な単語や事象が飛び込んでくる事に、バランス感覚を感じた。この作家の小説感や題材の扱い方には共鳴し、実際に面白く読んだが、力はさほど感じなかった。文章の細部にもっと精緻なものを感じたかった。細部と全体。小説は…

守島邦明「息子の逸楽」 【B】

無駄を徹底的に削りきちんと一篇に纏めた印象。やや纏まり切れていない部分や削りすぎたのではと思う箇所もあるにはあるが、ストイックな姿勢に好感はもてた。作品の話自体に今少し爆発力が欲しかったが、土台はしっかりした作家だと思う。

荻世いをら「宦官への授業」【B】

「ではなく」の一々の多用がひどい事もあり、中盤から飽き、全体として無駄が多かった印象。文章の密度はあり木下古栗と類似の印象を受けるが、一文に潔癖になり嵩張るあまり全体性を失う弊害。この世代の作家に多い弊害。文芸誌には時々見かける名前であり…

前田隆壱「アフリカ鯰」【B+】

物語としては楽しく読んだ。アフリカをただアフリカとして描いている印象。ただ絶賛には程遠い。友情が途中から押し付けがましく所感した点と、短文の連なりが美文であると途中から説教されているように所感した点。

いとうせいこう「鼻に挟み撃ち」【B-】

敬愛しているのだろう作家諸氏や周囲の実在するタレント等の固有名が出てくるが、そういった固有名に頼らず作った方が良かった。そのような固有名になじみのない読者からすれば狭さしか覚えぬ部分も。パーソナルな切実さ以上にそのような点が散見した事が残…

桜井晴也「世界泥棒」【C+】

ただ単純に途中から面白くなくなった。それはどの地点という話ではなく、この作者の中で既に凝り固まっているのだろう文学的スタンスに触れてしまったからだろう。作家のスキのなさはともすれば作品の欠陥になる。もしこのスタンス・この題材で書くのなら、…

金城孝祐「教授と少女と錬金術師」【C】

タイトルからして纏まりのない印象を受けて、それは内容までもがそうだった。とりとめのない事が作風なのは分かるが、そのとりとめのなさは面白い事が大前提。中途半端。自由連想という一つの方法様式にまでも突っ切ることが出来ていない印象。

奥田亜希子「左目に映る星」【B】

最初はありきたりな感じがしたが、読み進める内になかなかの才気を感じた。文章と構成にテンションがある上、性的題材も正面から書く事が出来る。但し男性描写は今一つ。

木下古栗「新しい極刑」【B】

個人的に終盤は好きで、文章の密度も相変わらず高いのだが、緩急が少ない故、中盤は読むのが辛かった。情報量がうまく見合っていない印象。この作家の作品の中で間違いなく力作ではあると思う。

松波太郎「LIFE」【評価不能】

青木作品で使った【評価不能】を今回も使わせて頂く。ただ青木作品とはまた別の意味で評価不能。一つの達成ではあると所感。ただ論じる言葉が今は無し。

淺川継太「ある日の結婚」【B+】

安部公房を思わせる表現は数多くあるが、本質の部分ではきちんとこの作家の作品たりえている。妄想ではあるが何かのイメージに寄り添っている印象は少ない。安部公房的表現を除外した上で次は読みたい。

上田岳弘「太陽」【B】

前半の大⇔小、広⇔狭というノリは申し分なく才気を感じたが、それを最後まで押し切るには力不足の感。終盤に合わせて前半を作り直す勇気も必要。

滝口悠生「寝相」【B+】

センスの良さが押し付けがましくない形で発露しているという事は本当にセンスが良いのだろう。この作品を読み多々考えた。話自体は趣味ではないのに最後まで読まされた感覚。センスの良さだけでも作品になるのだと結論。

中村文則「銃」【A】

最近文庫で再読しこの作家の中で最も優れた作品である事を再認識。無駄のないオーソドックスな純文学的文体ながらリズム含有。タイトル・文体・内容とも締りがある。

島田雅彦「ニッチを探して」【B】

前半はかなり面白かった。文章は凡庸だが話の巧い作家だし作品。後半はやや単調。娘の知人だと思い家に行くのは理由があれこれあってもその後の展開的に都合良すぎ。後半の息切れがなければより高評価。

松家仁之「沈むフランシス」【B】

長めの作品だがイメージは一貫しており新人離れ。けれどもそのイメージのために作中人物の現実感が失われている印象。ご都合主義を作中人物に背負わせ、作品は一貫。ある意味興味深い。

荻世いをら「おでかけの感じ」【B−】

企みに満ち満ちている事が冒頭で想像でき正直げんなり。そういう楽しみ方をする文学部読者にはいいかもしれない。それでも最後まで何とか読んだが、猫に新しい意味を付加するあざとさが前傾。文章はまずまず。

楠見朋彦「滅びの後の音楽」【C+】

作品世界の中に入っていくのが難しい作品だった。自分は低い評価をつけるが、高い評価をつける読者の気持も分かる作品。ただそういう読者は骨董的。題材が題材なだけに残念。皮肉ではなく雑誌という同人誌的作品。

松田青子「英子の森」【B】

リズムの良い文章は要所要所に散りばめられ、眠気が起こる間際でいつも出てくるので眠りはしなかった。ただ文章のリズムとは対照的に時間や場面の動かし方は凡庸に所感。英語教育の話からもっと大きい展開が欲しかった。

松波太郎「サント・ニーニョ」【B+】

台風に当たりにフィリピンまで行く発想は面白く現実感もひしひしと伝わってきたが、音響の反復が執拗でやや中弛み。もう少しスマートにしても。

いとうせいこう「想像ラジオ」【B+】

良い話として楽しませて貰った。ただDJの話し言葉も含めて全体的に文章が粗い印象。良い話として楽しませて貰った事が全てに感じる。

戌井昭人「すっぽん心中」【B+】

個人的には以前より断然巧くなっていると所感。枚数が少ない事も理由かもしれないが、メリハリがきいた書き方。ただその分この作家のエッセンスが伝わりすぎ、結果自己再生産のように読まれる可能性も。

北野道夫「失踪」【B−】

この作家の作風は嫌いではないのだが今回は付き合い切れなかったというのが本音。決して容易ではない事をしているのは分かるのだが、その容易ではない事の向こうに何があるのか、それはきちんと容易に伝えて欲しい。

谷崎由依「さかなの娘」【B+】

これまでのこの作家の作品の中では最も面白く読んだ。これまでの評価が低かったので絶賛とまではいかないが、この方向性を高く評価したい。文章の質で言うと新人離れしていることは一読してわかるレベルで、あとは作品から立ち上がる閉鎖的空気をどう開いて…

木村友祐「猫の香箱を死守する党」【B−】

話自体は好きだが、この作者の人の良さが作品を通じて見えすぎていて残念だった。作品の質と作家の人格は無論比例しない。故意に露悪的になる必要もなかろうが、そのあたりに筆力とは異なる職業作家の適性を思う。この篩に耐えられる作家は特に現在の新人の…

藤野可織「8月の8つの短篇」【C+】

率直に言ってあまり才気を感じなかった。短編はやはり才気を見たいという私見からの判断で、この作家は中編作家かも。ここ近年は恐怖テーマにいろいろなテーマが絡み合っているが、ブレに感じること多し。恐怖テーマ一辺倒で戦ってほしいという希望