2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

島田雅彦「ニッチを探して」【B】

前半はかなり面白かった。文章は凡庸だが話の巧い作家だし作品。後半はやや単調。娘の知人だと思い家に行くのは理由があれこれあってもその後の展開的に都合良すぎ。後半の息切れがなければより高評価。

松家仁之「沈むフランシス」【B】

長めの作品だがイメージは一貫しており新人離れ。けれどもそのイメージのために作中人物の現実感が失われている印象。ご都合主義を作中人物に背負わせ、作品は一貫。ある意味興味深い。

荻世いをら「おでかけの感じ」【B−】

企みに満ち満ちている事が冒頭で想像でき正直げんなり。そういう楽しみ方をする文学部読者にはいいかもしれない。それでも最後まで何とか読んだが、猫に新しい意味を付加するあざとさが前傾。文章はまずまず。

楠見朋彦「滅びの後の音楽」【C+】

作品世界の中に入っていくのが難しい作品だった。自分は低い評価をつけるが、高い評価をつける読者の気持も分かる作品。ただそういう読者は骨董的。題材が題材なだけに残念。皮肉ではなく雑誌という同人誌的作品。

松田青子「英子の森」【B】

リズムの良い文章は要所要所に散りばめられ、眠気が起こる間際でいつも出てくるので眠りはしなかった。ただ文章のリズムとは対照的に時間や場面の動かし方は凡庸に所感。英語教育の話からもっと大きい展開が欲しかった。

松波太郎「サント・ニーニョ」【B+】

台風に当たりにフィリピンまで行く発想は面白く現実感もひしひしと伝わってきたが、音響の反復が執拗でやや中弛み。もう少しスマートにしても。

いとうせいこう「想像ラジオ」【B+】

良い話として楽しませて貰った。ただDJの話し言葉も含めて全体的に文章が粗い印象。良い話として楽しませて貰った事が全てに感じる。

戌井昭人「すっぽん心中」【B+】

個人的には以前より断然巧くなっていると所感。枚数が少ない事も理由かもしれないが、メリハリがきいた書き方。ただその分この作家のエッセンスが伝わりすぎ、結果自己再生産のように読まれる可能性も。

北野道夫「失踪」【B−】

この作家の作風は嫌いではないのだが今回は付き合い切れなかったというのが本音。決して容易ではない事をしているのは分かるのだが、その容易ではない事の向こうに何があるのか、それはきちんと容易に伝えて欲しい。

谷崎由依「さかなの娘」【B+】

これまでのこの作家の作品の中では最も面白く読んだ。これまでの評価が低かったので絶賛とまではいかないが、この方向性を高く評価したい。文章の質で言うと新人離れしていることは一読してわかるレベルで、あとは作品から立ち上がる閉鎖的空気をどう開いて…

木村友祐「猫の香箱を死守する党」【B−】

話自体は好きだが、この作者の人の良さが作品を通じて見えすぎていて残念だった。作品の質と作家の人格は無論比例しない。故意に露悪的になる必要もなかろうが、そのあたりに筆力とは異なる職業作家の適性を思う。この篩に耐えられる作家は特に現在の新人の…

藤野可織「8月の8つの短篇」【C+】

率直に言ってあまり才気を感じなかった。短編はやはり才気を見たいという私見からの判断で、この作家は中編作家かも。ここ近年は恐怖テーマにいろいろなテーマが絡み合っているが、ブレに感じること多し。恐怖テーマ一辺倒で戦ってほしいという希望

青木淳悟「激越!! プロ野球県聞録」【評価不能】

【評価不能】という新しい評価基準を作らせてしまった作品。これまでのこの作家の作品とは一線を画しているように所感。非人称的文体は今まで通りでそれまでだが、そこに新潟における地震や野球球団の切実な事情を切実さが決して生まれえないように淡々と筆…

丹下健太「猫の目犬の鼻」【B+】

この作家の特徴がうまく出ている気がし面白く拝読。前半から後半にかけてややだるさも感じたが、それも織り込み済みの文体。男性作家がここまで女性をすんなりと自然体で書けてしまうことに一種の戦慄。時間の転換はもうすこし工夫があっていいように思えた…

小山田浩子「穴」【B】

文芸誌界で話題の新人のようだが、やや気負いすぎたか。前半から穴にはまるまでは描写も含めて流れが良かったが、後半の義理の兄が出てくる前後からバランス失調。正直後半は眠気との戦い。書き急いで最後は義理の祖父の死・再雇用を無理やり押し込んだ感が…

佐藤友哉「ベッドタウン・マーダーケース」【C+】

文体として佐藤は嫌いではないが、この作品にはいまいち乗っかりきれず。3・11をSF化しつつそこにリアリズムを植え込む目論見が透けて見えすぎた。及び腰の印象。

新庄耕「オッケ、グッジョブ」【B】

話の設定そのものは悪くなく、デビュー作の連作のようにも感じたが、正直デビュー作の方がよかった。デビュー作の方が突き抜けていた。面白いやりとりも要所に見られたが、全体として今作はパンチ力に劣る。この作品を前半部とした後半部が読みたい。

木村紅美「ナイト・ライド・ホーム」【B−】

久しぶりに休暇を得て文芸誌をまとめて読む。一発目の作品だったが正直残念だった。全体的に退屈な作品だった。作中退屈さが貫徹している部分では評価できるが、3・11をとってつけた様なやりとりや諸々の凸凹が要所にあり、歯がゆさも。何かをなぞってい…