2015-01-01から1年間の記事一覧

海猫沢めろん 「キッズ・ファイヤー・ドットコム」 【B】

最初から突っ走って行く印象で、以前この作家の作品を読んだ際はかなり早い所でガス欠していた印象だが、今回は後半まで読まされた。途中で色々とチャンネルを変える等の工夫がなされたことも一因だろう。やはり終盤近くからはダレてきた印象だが、もう少し…

松波太郎 「ホモサピエンスの瞬間」 【A−】

緩急を保ちながら、個人の体内から国の歴史をこのサイズに収めているのは凄い。「瞬間」が歴史を断絶するシーンが切ない。鍼灸は他の作品でもよく目にするが、ここまで小説に馴染ませたのも初めてでは。この作家の特徴だったろうユーモアが薄いことが残念だ…

木村紅美 「八月の息子」 【B−】

文章はしっかりしている割に、ぼやぼやした読後感の作品。もう少し書き込んでもよかったのでは。何となく腰が落ち着かぬままに場面が移動して行った印象。サニーデイサービスの楽曲を引用したタイトルだったとしたら、もう少し文章から音楽を感じたかった。

岩井秀人 「俳優してみませんか講座」 【B】

演劇の人らしく文章に勢いがあるし、演劇という見様によっては狭い世界を広げてみせることに成功している気がするが、やはりその文章の精度や描写の力には改善の余地がある印象。情景がうまく伝わってこない。ここに他の多くの作家との差がある気が。

村田沙耶香 「消滅世界」 【B】

架空の設定に描写は途中までは拮抗していたように感じるが、やはり後半は無理を感じた。説明になりすぎているように感じたせいか。描写が足りないという印象ではないのだが、おそらくもう少し作家の中で噛み砕く必要があったのでは。

金子薫 「鳥打ちも夜更けには」 【B+】

この作家の作風に免疫がないせいか、序盤はかなり退屈に感じたが、それでも文章の緩急の妙さはクセになり、どんどん呑まれていった。寓話の情緒に流れすぎずに、もっとシンプルでも良さは出る気が。

星野智幸 「夜は終わらない」 【B+】

全体としては面白く読めた印象だが、読んでいる最中はそんなに面白くなかった。ミステリー仕立ての要素がありつつそそられないというのは、この作者が手法にかなり自覚的なのだろうが、私としてはもう少し普通に面白がりたかった。千夜一夜物語を引き合いに…

三輪太郎 「憂国者たち」 【B+】

面白く読んだ。固有名詞を憚らぬ作品からして賛否を呼びそうな作品だが、その固有名詞をおいてもきちんと文章を以て書き尽くされている。リアリティーもあると思う。しかしこのリアリティーを出すためのこの詰まった感じが、一般読者を、固有名詞の認知の問…

谷崎由依 「幼なじみ」 【C+】

文章がやはり巧く雰囲気ももっているが、かなり古臭く感じてしまう。文壇受けはしそうな古臭さだが、あえて今著されるべきものには感じない。以前よりプロットを重視しているように所感し、それが終盤は文章の足を引っ張っているよう。

羽田圭介 「スクラップ・アンド・ビルド」 【B】

ネタ集めにやや奔走している感。かつてほど題材をうまく裁ききれていないし、文章もかつてはもっと緻密で硬質だった。この少し弛緩した形が大向こうを唸らせることにもなるかもしれぬが、かつてのこの作家の良さを知る分、勿体無い。

川上未映子「苺ジャムから苺をひけば」【A−】

この作家の初期作品の詩情の切れ味に惹かれたために、近年の長篇作品の語りなどには凡庸さを感じてあまり評価できていなかったが、この作品は良かった。初期・中期を経て、このような題材の作品に行き着いた道筋も見えた。両方の時期の読者を満足させられる…

滝口悠生 「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」 【B】

前半の強度に比べると、だんだんと長たらしく感じてしまった。とっちらかっている印象があり、それを記憶という事象に落とし込むのにはもう一工夫必要だったのでは。記憶を描く前半の文章は巧く感じたので残念。

青木淳悟 「匿名芸術家」 【B+】

射程範囲の狭い作品のように所感。ゆえに他人に推薦できる作品ではないが、デビュー作から現在に至るまでの作品をとばしとばし一応読んで来ている私にとっては、胸に来る部分もあった。これはこの作家の作風には珍しい事であり、切実さとも言えよう。

村田沙耶香「殺人出産」【B−】

着想自体は楽しめたが、それにリアリティーを持たせる情景の描写なりがかなり弱く所感。この着想に適う文章はなかなか難しい。この作家の落ち度ではないようにも感じるが、こういった着想を考え出して文章の要求水準を引き上げたのは、この作家自身。

古井由吉「後の花」【A−】

同月号の原田作品と比べると完成度はやはり圧巻で、同月号の水木の若かりし日の思索と比べても圧倒的に深い。文学の王道のように感じさせる力がやはり凄く、文芸誌を買って読むからにはこういう満足感にも折々浸りたいものである。

又吉直樹「火花」【B】

原田宗典作品に感じた印象に少し似ている。前半と後半の強度・濃度の差からして完成度は決して高くなく、笑い的観点から見てもスベっている箇所も多い。しかし文学への愛を感じる。感じるために新しさはほとんど感じないが、この作家の自身を切り売りした生…

原田宗典「メメント・モリ」【B】

魂の感じる一作。魂を感じさせるだけで読むに値する。但しこれで復活とするにはいかないだろう。息も絶え絶えで何とか書き上げた印象。集中力が持続していない印象。作品の完成度としてはかなり低い。低いが故に訴えてくるものが強いから、文学は不思議であ…

山崎ナオコーラ「ネンレイズム」【C+】

昔はもっとこういうネタに堕していない作品を書いていた印象なだけに残念。根幹のアイデアが途中で息切れ。叙情のようなものも感じず、それでも最後まで読まされてしまうのは文章の力か。

山内マリコ「悪夢じゃなかった」【B−】

スタンスは緩いはずなのに、文芸誌ということで少し肩肘を張り過ぎな感。文学的題材を盛り込んだ感。もっと自然体でも面白そう。本谷有希子の初期を思わせるが、本谷とも違う魅力の片鱗は散見。

横山悠太「吾輩ハ猫ニナル」【B+】

題材選びとその手法のマッチングの時点で勝ち。文学の範疇を越えた言語に関心ある人々にも読まれるべき作品。ただこのマッチングの隙のなさが一発屋の臭気。他の題材にこれから冒険に出るより、この題材と手法でしばらく書いても。前半のインパクトに比べる…

滝口悠生「愛と人生」【B】

着想は面白かったし、その着想をきちんと最後まで形にする力はまず良い。但し細部を詰める余り、素材が持ち合わせていた緩さや間が損なわれている。緩急をコントロールできなくはない作家だと感じたゆえ、もう一、二ひねりのやりようがあったのでは。これで…

高橋弘希「指の骨」【B】

文章を書く力はすぐに見てとれるが、やはり今何故これを書かねばという必然性なり意思がうまく伝わってこない。伝わってこない以上、戦場日誌のエピゴーネンという色が濃い。読み手の寛大さに凭れすぎに感じる。残念ながら現状では、書く力はあるが、考える…

高尾長良「影媛」【A−】

古典の力をあからさまに借りたとはいえ、現在と混成させたセンスと文章の強度には目をみはる。才気を感じる。物語自体がやや凡庸の気があるだろうが、物語や古典に依拠せずともやっていける力があるのに、あえて、という所を評価したい。

福永信「未来を生きる君へのダイイングメッセージ」【C+】

文章芸術を通じて面白いことをしたい心構えは作中随所感じられるのだけど、空振りしている印象。面白くないのだから仕方ない。ダイイングメッセージという事からして何かひねってくるのだろうとは思っていたが、しかし、そういった諸々の試みは買いたいので…

上村亮平「みずうみのほうへ」【B+】

文体が雰囲気を湛えている。今回の作品世界は少しボケていて勿体なく感じたが、今後の作品に期待が持てるので、次回作が載った時は必ず買う。それだけ魅力的な文体と、文体同士の間である。

広小路尚祈「男子の戦争」【B−】

文章は読み易く、リズムもある。ただこのリズムがありがちなリズムであり、ここまでありがちな題材を書き表すのなら、もっと突き出たものがほしい。ハードもソフトも凡庸だという開き直りがもっと出れば、一皮むけそうな気が。

岩城けい「Masato」【B】

全体としてはまとまり良し。ただそれが作品の水準にイマイチ直結せず。何故だろう。おそらくこの作家の世界観そのものが単一的で安易だからでは。「世界もの」というネタがなければ、ごく普通かそれ以下と所感。

島本理生「夏の裁断」【B】

作家周辺的な話題にも関わらず、事情に疎い一般読者の私でも比較的楽しく読めた。情報性より告白性が強い作品に感じ、心に迫ってくるものもあった反面、作中作家のみならず文章までもが情に流れすぎているように感じ、途中ついていけなくなる場面も多し。文…

杉本裕孝「ヴェジトピア」【B+】

かなり好みの分かれそうな作風ならびに題材だが、私は面白く読了。熱狂的な読者もつくだろう。アンチの言う意見には耳を傾けずに、自作の強度を高めるべきに感じたが、一点、文章レベルでの読み辛さは否めず。作風を変えない範囲でひらいていけば、より多く…

上田岳弘「私の恋人」【B】

完成度はそれなりに感じたが、面白くなかったのが率直。やはりSFと海外文学の影響下による自動筆記的印象。取り組みとしては円城塔の完成度と衒学性を薄めて提示した印象で、それはデビュー作から変わらず。タイトルからして期待して読んだのが、やや残念。