松波太郎 「ホモサピエンスの瞬間」 【A−】

緩急を保ちながら、個人の体内から国の歴史をこのサイズに収めているのは凄い。「瞬間」が歴史を断絶するシーンが切ない。鍼灸は他の作品でもよく目にするが、ここまで小説に馴染ませたのも初めてでは。この作家の特徴だったろうユーモアが薄いことが残念だが、文章そして構成にも捉え所の無い妙なドライブ感は健在。論ずるのが難しい作家の一人で、今回は時代状況にもマッチし過ぎている事が、かえて避けられる可能性も。