筒井康隆 「モナドの領域」 【B+】

傑作ではなく遺作に感じた。この後もし再び別の作品が書かれるのなら、この作品に感じた最期ならではの一回性の感慨は薄れてしまうだろう。しかしこの作家なら良い意味で遣りかねない。是非裏切って大長編を書いて欲しい。文章は言うまでもなく確かだが、話の運びがかなり強引で、セリフばかりのやりとりのト書きのようなシーンでは遺言のようにしか感じなかった。神の講釈は言い切られているように感ずるが、神を畏怖する民の側のリアリティーが足りていない。もう100枚、200枚程の紙幅が必要だったのではないか。この作家の長年のファンでもなければ、性急さから来る違和の数々は避けられぬだろう。作品のとくに中盤以降が性急になるだけ事態は切迫しているのかとも深読みしてしまい、感慨深くなるのも、この作家の計算の内かも知れぬ。