村田沙耶香「コンビニ人間」【B】
人間の本質に関わる題材であり、一人の例として興味深く読める。但し一人の例の提示以上には感じらず。なぞっているかの如き書きぶりであり、文章で表すという力強さは感じられなかった。タイトル儘のネタといった印象。近い人物が周囲にいればイメージがつきやすいのだろうが、描写が圧倒的に不足しているので情景が膨らみ辛い。
吉村萬壱「宗教」 【B−】
ですます調の文体は「ボラード病」同様であり、文章の律し方それこそが宗教の如き所感だが、今回は微妙。枚数の問題というより内容そのものだろう。倫理意識も若干あるだろう。類型を描かない類型という規律に縛られている様に感じられ、その高みから語られるですますが喧しい。
西崎憲「日本のランチあるいは田舎の魔女」【C+】
書きぶりは端正で無駄のない文章だが、内容がとっ散らかってしまっている印象。途中で軸がぶれたか。無駄がない分ぶれだすと修正が難しいのだろう。出だしが象徴的な分今少し時間をかけて修正を加えても良かったのでは。
崔実「ジニのパズル」 【A−】
題材も無論あるのだろうが、現在の日本文学の窮屈さから解放されている印象。題材がこのようなのびやかな語りを呼び込んでいるのかもしれない。異化する必然性を所感。各国を移り行く各々のシーンにも書かれなければいけない必然性を感じさせる。語りののびやかさが却って全体の構成を間延びさせているのだろう粗や、既視感の濃いフレーズ等も散見されるが、それら以上に意義のある一回性の強い作品としてきちんと高く評価されるべき。作家としての力量はまだ未知数に感じはするが、存在それこそが今後の日本文学の中で重責を担わされるだろう。
高原英理「リスカ」【B−】
丁寧な筆致で文章が紡ぎだされている印象であり、基礎がしっかりとした力量を感じさせる。但し内容が内容なだけに、人物を模している作者の願望が透けて見える所が惜しい。作品世界は強固である事がかえって別の問題を惹起しているように所感。とは言え、この作者の別の作品も読みたくなった事は確か。